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夜の散歩と口笛と

ある夜、夫と出歩いていると、突然夫がノリノリで口笛を吹きだした。私はそういうちょっとおかしい行動には慣れているので、そのまま放っておいた。反応したら、調子に乗るだけである。だが私とは違い、それが気になって気になってしゃーなかったのが、前を歩いていたおばあさん。

 

ちらちら後ろを振り返り、私たちの方を見る。迷惑そうに。そりゃそうだ、調子はずれのメロディと音程の口笛を楽しそうに吹く大男が後ろからついて来たら私でも怖い。

 

それを見て気の毒に思った私は、夫を引き連れ早歩きでそのおばあさんを追い抜くことにした。そうすれば迷惑にはなるまい。

 

そうすると夫が突然こう言い放った。「あのおばあさんを口笛で洗脳しようとしていたのに邪魔するな。ふと気が付くとこのメロディが頭の中をリピートして、でもそれをどこで聞いたのか絶対思い出せへんねん。それで苦しむっていう技」

 

洗脳とか技とか知らんし、あのおばあさんが洗脳されるまえに真横で聞いてる私が頭おかしくなりそうやから今すぐやめろ。

 

そのおばあさんとは行く方向がしばらく同じで、同じ信号で止まったり、私たちが飲食店のメニューを見ている間に追い越されたり、また追い越したりという攻防戦が続き、その間も夫は絶えずその不気味な口笛を楽しそうに吹いていた。

 

私が気を利かせて洗脳されへんようにしてるんやから、おばあさんも気を利かせてどうぞ違う方向へさっさと行ってください、ともうすぐでいいそうなところで左に曲がってくれた。私のテレパシーが通じた結果だろうか。

 

そんな夫は、寝るときにぱっと見ると、濃いグレーのずぼん、薄いグレーのTシャツ、その中間くらいのグレーのパーカーを着ていた。ねずみ男やん、と笑った私も、ふと自分を見ると濃いグレーのトレーナーに薄いグレーのずぼんを着ていた。

 

やはり夫婦ってだんだん似てくるんだな、と学んだ。だが、私は決して道端で人を洗脳したりしない。